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スポットライト

 

 

Juba Tuomola

それぞれの道をゆく言葉と絵

2007 年秋に刊行されたフィンランドの子どもの絵本を読んで

「つぎは雨どいだよ。雨どいの掃除はたいへんだ」と話すのはエミル少年です。エミルは、リーナ・カタヤヴオリ(Riina Katajavuori)の文とサッラ・サヴォライネン(Salla Savolainen)のイラストによる新作絵本『Mennään jo kotiin(もう、うちにかえろうよ)』(Tammi, 2007)の登場人物です。ところが、エミルも雨どいも大きな絵のどこにも描かれていません。そこにあるのは、おもちゃが散らばったエミルの部屋だけで す。語り手がエミルからミリヤムという女の子になっても、ミリヤムの代わりに母親がベッドに横たわって、文章と絵をしっかりつないでいます。

 

「ママは足の腱をいためて手術をしました。だから、今はなにもしないでベッドでねています。わたしはホウキに乗って部屋じゅうをかけまわったり、ママのと なりにキャメル毛布をしいてひと休みしたりします。そのときに、ママとおしゃべりしたり、聞こうとおもっていたことを聞いたりします。ママ、オオカミはい るの?アフリカには?フィンランドにはいないよね?人の家にいたりするの?」

 

言葉と絵は、必ずしも一緒に歩く必要はありません。自発的な子ども読者には、たとえば、フィンランドの家の子ども部屋の絵と必要最小限の言葉だけでいいの です。つまり、文芸理論家たちが理想とする読み手なりの解釈の余地という余白を、小さな読者に残してあげるということです。カタヤヴオリとサヴォライネン の絵本を子どもたちに試しに読んでもらったところ、文章と絵のズレによって、子どもたちはそこからさらに自分の物語を展開し、自由な想像の世界へ飛びこん でいるようでした。

 

Let's go homeカタヤヴオリの文章は日常を描写しながらも、その叙述には詩的領域が感じとれます。詩人の声は、日常のなかで、オオカミや天使の存在を問い、しなやかな人 魚を描写し、「子どもの見る力」について考えさせます。イラストは、実際のフィンランド人家庭の今日を写実的に描いています。細部が描きこまれた精緻な絵 によって、見ている読者はそこから自分の物語世界へ飛躍することができます。

 

 

 

言葉と絵はそれぞれの道を歩きながらも、文章とイラストは絵本のなかでお互いがお互いの有機的な部分となっています。文芸評論家ロラン・バルトが、 1960年代に絵本のテクストと絵の相互的な関係にすでに注目していたように、言葉と絵はさまざまな方法を生成します。ただし、どちらかが欠けては成り立 ちません。両者は、一つになったり補いあったりしながら、ある効果を生みだします。カタヤヴオリとサヴォライネンの本にみるように、言葉と絵の相互作用か ら新しいものが生成されるのです。

 

Muuttolintulapsiパイヴィ・フランツォン(Päivi Franzon)とサリ・アイロラ(Sari Airola)の最新刊『Muuttolintulapsi(わたり鳥になったアンナ)』(Lasten Keskus, 2006)も、想像の余地が感じられる絵本です。友だちができない孤独なアンナは、自分でつくった翼で渡り鳥になり、温かい故郷へもどることを夢みます。 想像の力はとても大きく、夢と現実の境界がはっきりしないまま物語は進行します。小さなアンナは空を飛んで遠くのやさしい国を目ざし、雪に覆われた新しい 故郷にもどってきます。現実と空想の世界を彩るのは色鮮やかなイラストです。ひとりぼっちだったアンナは、以前の幸せな生活に触れると、モノクロからカ ラーに変わってゆきます。

 

フランツォンとアイロラの美しい物語の言葉と絵は、それぞれの役割を忠実に果たしています。つまり、一方で比喩に富んだ表現が物語に絵を添え、一方で絵は 物語の流れを方向づけているということです。両作家のコラボレーションによるユニークな叙述は、前作『Surusaappaat(エーミのかなしみ)』 (Lasten Keskus, 2006)でも顕著です。フランツォンとアイロラは、難しいテーマにも積極的に取り組んでいます。最新刊では孤独を取り上げ、前作では子どもの視点から死 を捉えました。.


Tatun ja Patun Suomi秋に刊行された絵本には、言葉と絵によるノンフィクションもあります。情報という重荷をユーモアで軽減した絵本に、アイノ・ハヴカイネン(Aino Havukainen)とサミ・トイヴォネン(Sami Toivonen)のフィンランディア・ジュニア賞受賞作『Tatun ja Patun Suomi(タトゥとパトゥのフィンランド)』(Otava, 2007)があります。フィンランドの独立への歩みが、楽しくてわかりやすい文章で語られた遊び心と喜びいっぱいの一冊です。ユーモアに溢れたイラストに よって、子どもはコミカルなスラップスティックのようにフィンランドを探検し、大人にとってはおさだまりのフィンランドが間テクスト的におもしろおかしく 映ることでしょう。同じようなユーモアと情報の組み合わせは、最新刊『Koiramäen lapset ja näkki(わんわん丘の子どもと水の精)』(Otava, 2007)を含めたマウリ・クンナス(Mauri Kunnas)の作品にも見られます。クンナスは、もっとも翻訳されているフィンランドの絵本作家の一人です。

 

クリステル・ロンス(Christel Rönns)のユーモアのあるイラストとユッカ・イトコネン(Juka Itkonen)のすばらしい詩による児童詩『Taikuri Into Kiemura(手品師のイント・キエムラ)』(Otava, 2007)も、子どもも大人もうれしくなる絵本です。フィンランディア・ジュニア賞候補にあがった同書は、さまざまな職業を意欲的に紹介しています。絵本 はリズミカルに韻を踏んだ詩に包まれ、ピンクや紫やレトロ調の花で装飾されたイラストと効果的なレイアウトが、子ども読者を楽しませてくれます。

 

 

Joka kolkan kulkijaタンヤ・ポスケラ(Tanja Poskela)とパイヴィ・ニュゴルド=ニエミスト(Päivi Nygård-Niemistö)のコラボレーション作品の第一作『Joka kolkan kulkija(旅人からの贈りもの)』(Lasten Keskus, 2007)は、ゆとりのない殺伐とした世の中で思いやりの心を教えてくれる美しい物語です。同作品においても、言葉と絵はお互いに縛られることなく自由で ありながら、不変なテーマと優美なイラストという普遍性によってつながれています。すさんだ町にキラキラ輝く真珠を贈る旅人は、文化の違いを超えて多くの 読者に共感を呼び起こしやすいキャラクターではないでしょうか。

 

「親切にすることや思いやることで失うものはなにもありません。それどころか、小さな奇跡という真珠を他人に与えることができるのです」

 

秋に刊行された絵本のなかには、ほかにもこのような普遍的なキャラクターが登場しています。たとえば、先にご紹介した『わたり鳥になったアンナ』は、東洋 の国々を舞台にグローバルに描写されています。アウリッキ・ミエッティネン(Aulikki Miettinen)の絵本『Otto ja keijuvauva(オットくんとあかちゃん)』(WSOY, 2007)では、おばあちゃん、くまのぬいぐるみ、カンガルー、精霊という異なるキャラクターが、対立することなく調和しあって描かれています。

 

最後にもう一冊、ご紹介しておきたいのは、現実的な妖精を描写したサッラ・サヴォライネンとハンヌ・サヴォライネン(Hannu Savolainen)の絵本『Milla ja pohjaton pyykkikori(ミッラと底なし洗濯かご)』(WSOY, 2007)です。Milla ja pohjaton pyykkikori両作家のコラボレーション第一作となる作品には、疲労困憊の母親が描かれています。やっと始まった夏休み初日の朝、クローゼットから着たい服が見つからず 母親が倒れてしまったため、ミッラは約束の遊園地に行けなくなってしまいました。がっかりしているミッラの前に妖精が現れて、服をどんどん出してくれると いう魔法の袋を手わたします。クローゼットに入れるつもりが、ミッラは洗濯かごにうっかり置き忘れてしまいました。そのせいで、洗濯ひもが足りなくなるほ ど洗濯物がどんどん増えて、新しい現実に追いつけなくなってしまいます。この話は、子どもにとってまちがいなく楽しいものでしょう。しかし、なにかと背負 い込むことの多い親にとっても、教えられながらも一息つける話です。洗濯物がどんなにあっても、モノがどんなに溢れても、共有する時間をだいなしにしては ならないということです。

 

秋の絵本の新刊には、鮮やかな配色と的確な時代描写が多く見受けられます。情報に富んだものもあれば、人生について深く考えさせられるものもありま す。子どもの絵本は多数刊行されています。2006年にフィンランドで刊行された子ども向け絵本は166冊、ヤングアダルト向けは62冊でした。2007 年10月現在で、もっとも読まれている絵本を含めた児童書は、アイノ・ハヴカイネン&サミ・トイヴォネンの『タトゥとパトゥのフィンランド』、マウリ・ク ンナスの『わんわん丘の子どもと水の精』、シニッカ・ノポラ(Sinikka Nopola)&ティーナ・ノポラ(Tiina Nopola)の人気シリーズ最新刊『Risto Räppääjä ja viimeinen tötterö(リスト・ラッパーヤとゆかいなラウハおばさん これが最後のクッキーアイス)』(Tammi, 2007)が挙げられます。2006年の売上良好な絵本は、マウリ・クンナスの『Viikingit tulevat!(ヴァイキングがやってくる!)』(Otava, 2006)と「わんわん丘」シリーズ、シニッカ・ノポラ&ティーナ・ノポラの「リスト・ラッパーヤとゆかいなラウハおばさん」シリーズと「ヘイナとトッ ス」シリーズ、アイノ・ハヴカイネン&サミ・トイヴォネンの「タトゥとパトゥ」シリーズ、ティモ・パルヴェラ(Timo Parvela)&ヴィルピ・タルヴィティエ(Virpi Talvitie)のフィンランディア・ジュニア賞受賞作『シーソー(Keinulauta)』(WSOY, 2006)です。フィンランドの絵本は諸外国で飛躍的に翻訳されています。2006年から2007年にかけて、新たに21冊が出版契約を交わしました。今 後がますます期待できます。

 

 

2007 年11 月16 日

FILI フィンランド文学情報センター

ハンネレ・イュルッカ

(訳 末延弘子)

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2006 年秋に刊行された絵本作品から

 

 

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2000 年代にみるフィンランドの児童向けノンフィクション本

 

 

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